「啐啄の機」 No.48(2025年7月1日)

2025.07.01

心の豊かさを育む夏に
 
先月、本校では教育実習が行われました。今年も多くの実習生が、生徒たちと真摯に向き合い、学びの現場で貴重な経験を積んでくれました。そして実習を終えた後には、私宛にお礼の手紙を送ってくれます。今年届いた手紙の中で、ある実習生は次のように綴っていました。
 
「全校集会で校長先生のおっしゃった『幸福は他者との関わりからのみ得られることである。仲間との関係を大事にするべきだ』という言葉は今でも心に深く残っています。多くの方々のお陰で、今の自分が幸福を感じられていることに気づき、感謝の気持ちを忘れずにこれからも人との関わりを大事にしたいと思います。」
 
この全校集会は、教育実習の初日に行われたものでした。私はそのときの講話の中で、今年5月に亡くなられた南米ウルグアイの元大統領ホセ・ムヒカ氏の次の言葉を紹介しました。
 
「人を幸せにしてくれるのはモノではない。人は、命あるものからしか、幸せをもらうことはできない。」
 
私はこの言葉を通して、生徒の皆さんにこう伝えました。——人間の幸せは、どれだけ持っているかではなく、どれだけ分かち合えるか、どれだけ感謝できるかにかかっているのではないか。友達や家族と過ごす時間、誰かにやさしくされたり、誰かのためになって感謝されたりする瞬間こそが、心を豊かにしてくれるのです。——
 
まもなく夏休みが始まります。自由な時間が増えるこの期間は、自分自身と向き合う貴重な機会でもあります。けれども、近年スマートフォンに多くの時間を費やし、周囲の人との関わりよりも画面の中の情報に気を取られてしまう生徒が増えていることを、私は少し心配しています。
 
たしかにスマートフォンは便利な道具ですが、過度の依存は、大切な人との時間や、自分の心の声に耳を傾ける機会を奪ってしまうことにもなりかねません。ぜひこの夏は、スマホから少し距離を置いて、目の前の人との会話や自然の中で過ごす時間を大切にしてみてください。
 
モノではなく、人とのつながりの中にある幸せを見つける夏に。皆さんが、世界一幸せな人になれるような、そんな夏休みになることを願っています。