「啐啄の機」 No.32(2024年2月1日)

2024.02.01

力を発揮するために ~ 高名の木登りに学ぶ
 
鎌倉時代の随筆『徒然草』に登場する有名なエピソードの一つに、「高名(こうみょう)の木登り」があります。以下は簡単なあらすじです。
 
木登りの名人が弟子を指図して、高い木の枝を切らせていました。高く危険な場所での作業では黙って見ているだけでしたが、弟子が枝を切り終えて低い場所まで降りてきたとき、名人は初めて「気をつけて降りなさい」と声をかけました。
 
この名人は「人は『終わり』を意識すると失敗しがちである」という気の緩みを見抜いていたのでしょう。私も自らの経験と照らし合わせたとき、名人のこの言葉は妙に腑に落ちる気がします。また、『徒然草』の中でも兼好法師が名人の見識にえらく感心している様子が描かれています。
 
実は、名人のこの戒めは現代の脳科学で証明されています。脳科学によると、脳の機能は「もうすぐ終わりだ」と思った瞬間に低下し、パフォーマンスが下がるのだそうです。なぜなら脳の活性化は、報酬やご褒美が得られたという「結果」によって起こるのではなく、それらが得られそうだという「期待」によって起こるからです。
 
ですから、私たちが脳のパフォーマンスを最大限に発揮させるには、できるだけ「期待」している時間を持続させることが重要です。そして、そのためには「ゴール地点を少し先に設定する」ということが有効です。
 
競泳の北島康介選手はこの脳の特性を利用して、プールの壁をゴールだと思うのではなく、壁に触れた後に振り向いて電光掲示板を見た瞬間をゴールだと考える訓練を重ねました。そしてその結果、ゴール直前での失速を克服し、オリンピックで世界記録を更新したといいます。
 
受験生の皆さん。皆さんはいよいよこれから入試本番に挑みます。今までの努力が実を結ぶときが近づきつつあります。そんな皆さんの力を最大限に発揮させるためには、くれぐれも油断は禁物です。「合格発表を見るまで試験は続いている」という気持ちで入試に挑んでください。
 
受験生の皆さんが本番で最大限の力を発揮できるよう、私たちは皆さんを応援しています。