「啐啄の機」 No.22(2023年3月1日)

2023.03.01

子どもは未来からの使者である
 
長く続いた新型コロナウィルス感染症の流行が、ここにきてやっと沈静化に向かいつつあるようです。それに伴ってこれまでは母校への訪問を遠慮していた卒業生たちが、この頃は年度末の近況報告に訪れてくるようになりました。そして、そのうちの何人かは校長室に挨拶に来てくれることもあり、つい先日も10年ほど前に卒業した男子2名が久しぶりに顔を見せに来てくれました。
 
訪問してくれたふたりは、在学中の面影を残しつつも今では立派な青年に成長し、一方は都内で、他方は埼玉で、それぞれ数学科の教員として働いています。教師としてはまだまだ駆け出しのふたりですが、苦労はしながらもやりがいのある毎日について、目を輝かせながら語ってくれました。そんな彼らの姿を見ていると、かつては教師と生徒であった我々の関係が、今ではともに日本の教育界を支える仲間となったことに、歳月の持つ不思議な力を感じます。
 
子どもは未来からの使者である──これはインドの”詩聖”と呼ばれ、1913年にアジア人として初めてノーベル賞(文学賞)を受賞したラビンドラナート・タゴール(1861-1941)の言葉です。この言葉の意味は、たとえ今は幼く未熟な子どもであったとしても、いずれはその子どもたちが成長し、未来を創り支えていくことになるのだ、ということなのでしょう。私自身、教師として多くの生徒と関わりながら、卒業後にこうして成長した姿で再会をすると、たしかに「子どもは未来からの使者である」と、しみじみ思います。
 
校長室を訪問してくれたふたりとは、中学時代のことや高校時代のことを振り返りながら、当時の未熟だった在学中の姿が今では笑い話として語れるようになったことを感謝しつつ、お互いが共有できる思い出を持っている素晴らしさを噛みしめていました。次に会ったときには、彼らはさらに頼もしく成長していることでしょう。
 
今日から3月。卒業の季節となりました。この春、本校からもたくさんの生徒が巣立っていきます。コロナ禍で過ごした三年間の学校生活のなかで、私たちはどれだけ未来からの使者たちと思い出を共有することができたのか、それを思うと心が痛みます。でも、きっと卒業生たちは、それぞれの未来に帰っていき、それぞれの舞台で活躍してくれることでしょう。そしていつかまた母校を訪れ、成長した姿を見せてくれる日があるのなら、これ以上嬉しいことはありません。私たちはいつでも大歓迎です。
 
4月には学校はまた新たな使者を迎えます。皆さま、どうかこれからもTDUをご支援いただきますよう、よろしくお願いいたします。 

1916年にタゴールは日本を訪れています。
右端には近代日本画壇の巨匠横山大観の姿もあります。