「啐啄の機」 No.14(2022年6月1日)

2022.06.01

中2鎌倉散策と高1進路講話

東京都が新型コロナウイルス感染症対策として設定していたリバウンド警戒期間が終了したこともあり、先日、中学校では久しぶりに校外活動を実施しました。私も中学2年生に同行して、今年の大河ドラマの舞台である鎌倉市内散策(グループごとの自主研修)を引率しました。この日は、朝のうちこそ雨模様でしたが、次第に天候も回復し、生徒たちはそれぞれに計画したコースを回り、市内の主だった見学地を訪れました。

大仏前では生徒たちの通過チェックを行います。

ただ、なにしろ都内の学校に通っている生徒たちですから、ほとんどの生徒にとって鎌倉は初めて訪れる土地です。なかには地図を片手に目的地を探すのに四苦八苦するグループもありました。もっとも、そんなふうに道に迷い、思わぬ寄り道をしながら見知らぬ土地を探検するのも旅の醍醐味かもしれません。最短距離で目的地に到着するのも良いですが、行きつ戻りつしながら予定外の探索に時間をかけるのも貴重な体験です。生徒たちはたくさんの未知なるものとの出会いや発見を楽しんでいたようで、今回の校外学習を通してそれぞれに大きな収穫を得て帰ってきました。

さて、そんな鎌倉散策の翌日に、学校では高校1年生を対象とした進路講話を行いました。大学から電子工学がご専門の先生をお招きして、大学での学びについてお話ししていただきました。本校の生徒たちは高校卒業後には7割が理系分野の大学に進学します。今回の講話を通して生徒たちは「工学における研究とはどういうものか」ということを感じてくれたのではないかと思います。

当日は、私も生徒たちと一緒にその先生のお話しをたいへん興味深く聴講していました。そして、その中でも、その先生が大学における研究について次のように説明されたことが強く印象に残っています。

「大学での研究は高校までの勉強と違って、だれも知らないことを解き明かすことです。そこでは何が正解かわからない。また、正解そのものが存在するかどうかもわからない。だから、研究活動を続けるためには、研究そのものを面白いと感じられることが大事です。」

私はこの説明を聞きながら、ときに失敗しながらも研究そのものを楽しんでいるその先生の姿が目に浮かびました。プロセスを楽しむという能力は、きっと研究者として重要な素質の一つなのでしょう。そして、その先生の姿に、道に迷いながらもワクワクしながら鎌倉の町を散策していた中学生たちの様子が重なり、なにとはなしに前日の鎌倉でのことを思い出していました。

もちろん、事前にしっかりと計画を立てて、その計画通りに実行し目的を達成するということも、とても大事な能力です。けれども、計画通りに実行することばかりに慣れていると、状況の変化についていくことができません。そして、世の中は往々にして計画通りにならないことの方が多く、そのときにどのように臨機応変に対応するかという能力が重要になります。そのためには、うまくいかなかったことも含めてプロセスを楽しみ、そこに新たな発見を見いだす能力が必要になるのではないでしょうか。実験室に生えたカビからペニシリンを発見したフレミングや、ニトログリセリンをうっかりこぼしてしまったことがダイナマイトの発明につながったノーベルなども、そんな能力の持ち主だったのかもしれません。

失敗も含めてプロセスを楽しむといっても、失敗する方法を教えてくれる人はどこにもいません。自ら経験することでしか、失敗することはできません。ですから、鎌倉での経験は、きっと生徒たちにとって貴重なものだったことでしょう。これからも学校では生徒たちにいろいろな経験のできる機会を用意し、安心して失敗できる場を提供したいと思っています。