「啐啄の機」 No.11(2022年3月1日)

2022.03.01

なにも咲かない寒い日は ~ 努力の意味を問う

先ごろ閉幕した北京オリンピックでは、昨夏の東京オリンピックに続き日本勢の活躍が話題になりました。今大会だけで4つのメダルを獲得した女子スピードスケートの髙木美帆選手や、<人類史上最高難度>で金メダリストとなった男子ハーフパイプの平野歩夢選手、そして見事なチームワークで銀メダルに輝いた女子カーリングのロコ・ソラーレなど、みなさんの記憶にも焼きついているのではないでしょうか。

ただ、その一方で惜しくもメダルに届かなかった選手もいます。特に、男子フィギュアスケートの羽生結弦選手は今大会にオリンピック三連覇がかかっていただけに、五輪開幕前から注目されていました。そうしたこともあって、最終的に4位に終わったときに羽生選手が語った「報われない努力だったかもしれないですけど、これ以上ないくらい頑張ったと思います。」という言葉は、さまざまなメディアで取り上げられ、大きな反響を呼びました。それは、世の中の多くの人が「報われない努力」を経験しているからなのかもしれません。

この「報われない努力」というのが金メダルを逃したことを指すのなら、ほとんどのアスリートの努力は報われないことになります。けれども、たとえ4位に終わっても、羽生選手のこれまでの努力が称賛に値するものであることは論を待ちません。そして、今回の「オリンピック」という舞台では結果が出なかったにしても、今後羽生選手が別の舞台に立ったときには(たとえそれが競技者としてではなくとも)、きっとこれまでの努力がおおいに活かされるに違いないと思うのです。

同じアスリートの世界でいうなら、2000年のシドニー五輪女子マラソン金メダリストの高橋尚子さんは、高校時代の恩師から次の言葉を送られ、今でも大切に胸に刻んでいるそうです。

「なにも咲かない寒い日は、下へ下へと根を伸ばせ。やがて大きな花が咲く。」

努力をしても結果が伴わないことは、生きていればだれにでもあります。しかし、たとえ報われない努力だったとしても、その努力に意味がなかったとか、無駄だったとは決して言えないはずです。なぜなら、努力は花を咲かすことではなく、地中深くに根を張ることだからです。そして、「根深ければ葉枯れず」という言葉があるように、深く根を張っている限り植物は生気を失うことはありません。いつかきっと花を咲かせる日が来ます。

私たちは一人ひとり異なった人生を送っています。興味や関心、また価値観や信条が異なります。けれども、そんなふうに一人ひとり異なった個性を持っている我々でも、スポーツにしろ勉強にしろ、他者と競うときには共通のルールのもとで同じフィールドに立たなければいけません。そして、その結果として「報われない」と感じることもあります。しかし、それはあくまでもそのときに立っていた舞台上でのことであり、別のステージに移動すれば、これまで頑張ってきた経験が活かされることだってあるはずです。

努力とは、花を咲かせることではなく、根を張ることです。たとえ報われない努力に思えたとしても、その努力は見えないところであなた自身を支える大きな力になっているはずです。だからこそ、「これ以上ないくらい頑張った」と言った羽生選手の言葉が、私たちの胸に響くのだと思います。

だいぶ日差しが暖かくなってきました。
春はもうすぐそこまで来ているようです。