「啐啄の機」 No.4(2021年7月1日)

2021.07.01

一歩踏み出す勇気 ~ ドラゴン桜に思うこと

TVドラマ「ドラゴン桜」が、先日終了しました。昨今のテレビ離れと言われるなかで最終回の視聴率が20%を超えたそうですから、皆さんのなかにもご覧になっていた方は多かったのではないでしょうか。私自身も教育に携わる立場ということもあり、このドラマはたいへん興味深く見ていました。

さて、その「ドラゴン桜」で、特に印象に残っている場面があります。

高校生の天野君(加藤清史郎)は自分に自信がなく、東大を受験するかどうか迷っていました。そんな天野君が桜木先生(阿部寛)のもとへ相談に行くと、なんと、桜木先生は天野君を海に放り込んでしまいます。そして、桜木先生は自らも海に飛び込み、こう言い放ちました。

「グダグダ考えていないで、とにかく飛び込んでみろ!」

かなり乱暴な演出で、実際の学校現場で同様のことを行ったら大問題になりますが、それだけに桜木先生のこの言葉は強烈で、胸に刺さりました。つまりこれは、「あれこれ迷っていないで、まず行動してみろ!」という桜木先生なりのメッセージだったのですね。そして、実際に天野君は桜木先生のこの言葉によって、東大受験を決意します。

もちろん、「考える」ということは決して悪いことではありません。むしろ我々は、分別なく行動することを浅はかであると戒め、思慮深く慎重に行動することを奨励します。けれどもその一方で、我々はなにか新しい行動を起こすとき、頭の中であれこれと考えているうちに機を逸してしまうことや、怖気づいてしまうこともあります。大人でもそうなのですから、ましてや人生経験が浅く、判断材料に乏しい子どもたちだったらなおさらです。さらには現代の失敗を許さない世の中の風潮も、子どもたちを臆病にしてしまう一因になっているかもしれません。

人間は知恵のある動物ですから、何かにつけてその理由を欲します。「なぜ、そんなことをするのか。」あるいは、「なぜ、そんなことをしなければいけないのか。」と。けれどもそれは、理由がなければ行動しない、ひいては、失敗を恐れてチャレンジしない、ということに通じます。ですから、行動を起こすための理由を探しているうちに、好機を逃してしまうということだってあるでしょう。つまり、人間の知恵がその行動を妨げてしまうといった、皮肉な事態を招くことがあるのです。

言わずもがなのことですが、「ドラゴン桜」では東大受験はたんなる題材に過ぎず、その本質的なテーマは高校生の成長の物語です。

ドラマの中では、それぞれの生徒たちがそれぞれに事情を抱えながら、それでも桜木先生のあと押しによって、東大受験に向かって一歩を踏み出しました。東大に合格するかどうかという結果以前に、彼らはすでに一歩踏み出した時点で大きく成長をしていたのでしょう。そして、目標に向かって進めば進むほど、見える景色が変わっていくことに気づいたはずです。それは、立ち止まって考えているだけでは決して見ることのできなかった景色です。

人生の豊かさというのは、そんな景色に何度出会えるのかによって決まるのではないでしょうか。私たち大人の役目は、迷い悩んでいる子どもたちのうしろから、そっと背中を押してやることなのかもしれません。

*今月の一枚

今年の3月に植えた桜の苗木です。TDUのドラゴン桜として、生徒たちと共に大きく成長してほしいと願っています。