「啐啄の機」 No.3(2021年6月1日)

2021.06.01

ことばの力 ~ コロナ禍における「絆」を考える

東京都における緊急事態宣言が再延長されました。現在の感染状況ではやむを得ない措置とはいえ、6月から部活動が再開されることを心待ちにしていた生徒の皆さんにとっては、またしばらくの間、いろいろなことを我慢する生活が続くことになります。そんな生徒の皆さんの気持ちを考えると心苦しい限りですが、学校としてはこうした状況の中でも可能な限り、学びを止めない努力を続けていきたいと考えています。

朝の登校風景

ところで、昨年来の新型コロナウィルス感染症の流行によって、世の中で大きく変わったことの一つに、人との距離の取り方があります。「ソーシャルディスタンス」ということばに表されているように、コロナ対策として最も有効な対策は、不要不急の外出や県をまたいでの移動を自粛し人流を止めること、つまり、人と人との結びつきを分断することです。

思い返せば、10年前の東日本大震災の際はこの逆でした。10年前に震災が起こったときには、被災地の人たちを孤立させないようにと、日本中から多くのボランティアの方々が被災地へ駆けつけました。そして、「絆(きずな)」ということばに象徴されるように、精神的・物理的に人と人とが強く結びつくことで、未曽有の状況を乗り越えようとしたのです。

現在のコロナ禍において、生徒の皆さんのなかで、強い孤独を感じている人はいませんか。学校行事や部活動などは、学校生活において仲間との結びつきを強く感じることのできる活動です。それらがコロナによってなくなってしまったことで、自分が集団の中で孤立しているような気持ちを抱いている人が、もしかしたらいるかもしれません。けれども、決して君たちは一人ではないし、周囲には必ず支えてくれている人がいるはずです。それなのに、もし一人で不安を抱えている人がいるのなら、とても心が痛みます。

そこで、人と人とが分断されたコロナ禍だからこそ、「絆」の意味を問いなおしてみてはどうでしょうか?

そもそも人間同士の結びつきは、目に見えるものではありません。そんな私たちが、周囲の人たちと心が通じ合ったと思えるのはどうしてなのでしょう。それは、私たちはことばによって気持ちを伝え合うことで、周囲との結びつきを感じているからです。逆に言えば、どんなに身近にいる人であっても、ことばで気持ちを伝えないと不安になります。それは家族でも親友でも、また恋人同士でも同じです。ことばにしないことで誤解をしたり、心が離れていったりすることがあるのです。

自分の気持ちをことばにする。
相手のことばに耳を傾ける。
遠く離れた人なら、手紙やメールを書く。
ふだんあまり会話をしていない人だったら、まずは「おはよう」と挨拶をしてみる。

こうしたことの積み重ねで、人と人との絆は強くなっていくのではないでしょうか。そして、そんなふうにお互いがことばを交わし合うことで、みんなが「自分は決してひとりではない」と感じられるのなら、きっとコロナも乗り越えられるように思います。

気持ちはことばにすることで相手に伝わり、それが人と人とを結びつける絆になります。そんなことばの力を信じて、お互いが励まし合い、支え合っていきたいと願っています。