「校長ブログ」 No.162(2019年6月24日)

2019.06.24

神霊矢口渡 ~2019歌舞伎鑑賞教室~

先週の土曜日午後あいにくの雨の中ではありましたが、今年も高校3年生約20名と国立劇場の歌舞伎鑑賞教室に行ってきました。(最近の鑑賞教室、外国のお客様が目立って増えているように思います…)

今回は江戸中期の奇才、平賀源内原作の『神霊矢口渡(しんれいやぐちのわたし)』より「頓兵衛住家(とんべえすみか)の場」を、中村鴈治郎以下成駒家一門を中心とした座組で拝見してきました。

多摩川矢口の渡しの傍らにある渡し守頓兵衛(中村鴈治郎)の家に、その頓兵衛の手にかかってだまし討ちされた新田義興の弟、新田義峰(中村虎之介)と恋人うてな(上村吉太朗)が一夜の宿を借りるためにやって来ました。留守の頓兵衛に代わって応対した娘のお舟(中村壱太郎)は美しい義峰に一目惚れしてしまいます。義興と同様に義峰らを捕らえて褒美を得ようとする強欲非道な父に逆らっても、恋しい義峰を逃す決意の純情一途なお舟。義峰の身代わりになって父に刺されたお舟は、最後の力を振り絞って義峰たちを包囲する村の囲みを解く合図の太鼓を打ち鳴らすのでした…。

さて、本作の見どころは二つ。

一つはいかにも憎々しげな悪役頓兵衛が、逃げた義興らを逃すものかと慌てふためく様をデフォルメした「蜘蛛手蛸足(くもでたこあし)」と呼ばれる不思議な動きで花道を引っ込むシーン。今年はいわゆる「ドブ席」と呼ばれる外花道すぐ脇の席でしたから、生徒たちは鴈治郎さんの体の動きの軽妙さを、目の前で堪能できたのではないかと思います。

もう一つはお舟の「人形振り」です。「人形振り」とは人形浄瑠璃の人形の動きを真似た演出技法のことです。無機質な顔の表情、首の振り方や歩き方、衣装の裾さばきに工夫を凝らし、あたかも人形のように演じます。人形の精が乗り移ったかのような壱太郎さんの演技に観客は釘付けとなり、お舟が太鼓を打つクライマックスシーンを迎えます。そもそも「人形振り」とは感情のないはずの人形の動きを通じて、女主人公の激しい感情を表出させる演出方法だそうです。客席の反応を見ていて、それに成功していることがわかりました。

今回のお芝居、強欲な父親と純情な娘を、実際に親子関係にある鴈治郎さんと壱太郎さんが演じる面白さや、歌舞伎俳優たちの身体能力の高さを実感させる独特な演技など、大変印象に残りました。なお、公演の前半には虎之介さん(鴈治郎さんの甥であり壱太郎さんの従弟にあたります)による「歌舞伎のみかた」があり、会場の高校生たちには大受けでした。