「校長ブログ」 No.161(2019年6月17日)

2019.06.17

新しい大学入試制度で求められる学力

いま、大学入試制度が大きく変わろうとしています。2021年の1月には「大学入試センター試験」に代わる「大学入学共通テスト」がスタートします。新しい共通テストでは、学力の3要素(注1)のうち知識・技能の習得に偏っていた従来の出題形式を一部改めて、受験生の思考力や判断力、表現力をみる形式の問題が出題されることになっています。教科書丸暗記の知識詰め込み型の勉強では対応できない問題が出されるわけです。

思考力・判断力・表現力とはいったいどんな学力なのでしょうか。中央教育審議会の答申(注2)では、思考、判断、表現の過程を次の3つに分類しています。
  • 物事の中から問題を見いだし、その問題を定義し解決の方向性を決定し、解決方法を探して計画を立て、結果を予測しながら実行し、振り返って次の問題発見・解決につなげていく過程
  • 精査した情報を基に自分の考えを形成し、文章や発話によって表現したり、目的や場面、状況等に応じて互いの考えを適切に伝え合い、多様な考えを理解したり、集団としての考えを形成したりしていく過程
  • 思いや考えを基に構想し、意味や価値を創造していく過程

さらに、こうした過程の中で以下のように思考・判断・表現できることが重要であるとしています。

  • 新たな情報と既存の知識を適切に組み合わせて、それらを活用しながら問題を解決したり、考えを形成したり、新たな価値を創造していくために必要となる思考
  • 必要な情報を選択し、解決の方向性や方法を比較・選択し、結論を決定していくために必要な判断や意思決定
  • 伝える相手や状況に応じた表現

これをさらに整理して簡単に言い換えると、こんな感じになります(注3)。

  • 問いを立てる能力(社会の諸事象を分析する能力)
  • 実際に行動を起こすための意思決定力
  • 第三者にわかりやすく伝えるために可視化(言語化)する能力

つまり、新しい大学入試では、課題解決に必要な情報を収集・分析した上で問題点を明確化し、解決策をわかりやすく言語化(文章表現)する能力を試す問題が出されるのではないでしょうか。すでに2回実施された「大学入学共通テスト」の試行調査問題を見ると、実際にそうした観点で作問されていることがわかります。

さて、新しいタイプの入試問題に立ち向かう上で、現状のみなさんが意識しなければならないことは何でしょうか?

思考・判断・表現の出発点となる「問いを立てる能力」が極めて重要であることは言うまでもありませんが、その上で、「問いを立てる」前提となる基礎的基本的な知識をきっちり身につけておくことが大切なのではないかと私は考えます。解決すべき課題の本質を見極めるためには、直感も大切ではあるけれど、そうした課題が設定される背景を理解しておくことが重要です。背景知識をしっかり習得していなければ、正しい認識を得ることはできないと思うのです。

『論語』為政篇に「学びて思はざれば則ち罔(くら)し 思ひて学ばざれば則ち殆(あや)ふし」という有名な一節があります。これを「知識ばかり詰め込んでいても物事の本質は理解できない。自分勝手な考えばかりでは独断に陥って正しい判断に結びつかない。」と解釈してみたらどうでしょう。要は、知識と思考の両者のバランスなのだと思います。

注1:学力の3要素とは、学校教育法第30条2項によれば、①基礎的な知識・技能 ②思考力・判断力・表現力等の能力 ③主体的に学習に取り組む態度 以上の3つを「学力の3要素」と呼んでいます。この3要素は小学校教育におけるものですが、中学や高校においても、基本的には学力とはこの3つの要素から成立するとされています。
注2:中央教育審議会「幼稚園、小学校、中学校、高等学校及び特別支援学校の学習指導要領等の改善及び必要な方策等について(答申)」(平成28年12月21日)p28~p31
注3:学力の3要素の言い換えについては、田中研之輔『教授だから知っている大学入試のトリセツ』(ちくまプリマ-新書2019年3月刊)を参考にしました。