「校長ブログ」 No.159(2019年5月16日)

2019.05.16

『京大変人講座』

日本のノーベル賞受賞者の出身大学を調べると、東京大学が8人(うち1名は日本出身で米国籍の南部陽一郎さん)に対して京都大学は7名で、物理学、化学、生理学・医学の自然科学系に限って言えば、5(4)名対7名で京大に軍配が上がります。

京大の先生たちは一般人からすると「めちゃくちゃ変な人」に見えるが、常識や世間体にとらわれず「なんかおもろいことやろうや」という自由な学風が、化学変化を起こしてノーベル賞級のスケール大きな研究に結びつくのだそうです。そんな「自由の学風」「変人のDNA」を持つ京都大学のユニークな研究と研究者を広く知ってもらうために、2017年から始まった公開講座が「京大変人講座」です。その一部が書籍として出版されました。

ゴリラの研究者として名高い山極寿一京大総長は、京大の変人性が研究に必要な理由として、常識にとらわれない変人でなければ、これまでとは違う発想ができないと言います。変人になるための方法は、「誰も経験していないことを経験して、未知の世界を体ごと知った上で、常識の世界を見渡す」ことと、「ふだんの世界にいながらにして、すべてを疑う」こと、別な言い方では「いかにいい問いを考えるか」が勝負だと言われます。なかなか奥の深い言葉ですね。

もう一つ、山極先生の言葉でおもしろいなと思ったのは、東京は自分の頭に知識を詰め込んで、それを使って自分の主張を相手に認めさせる「討論=ディベート」型であるのに対して、京都はお互い自分の考えを提案しながら「おっ、それ、おもろいやん、ほな、こうしてみたら?」と、だんだん形を変えて新しい場所に行き着く「対話=ダイヤローグ」型であるという対比です。国家に仕える官僚を養成する学校だった東大と、自由な学風の京大の違いが何となくわかる例えでしょう。

・毒ガスに満ちた「奇妙な惑星」へようこそ 
学校では教えてくれない!恐怖の「地球46億年史」
(人間・環境学研究科 地球岩石学の小木曽哲教授)

・なぜ鮨屋のおやじは怒っているのか  
「お客さまは神さま」ではない!
(経営管理大学院 サービス経営学の山内裕准教授)

・人間は“おおざっぱ”がちょうどいい  
安心、安全が人類を滅ぼす
(人間・環境学研究科 法哲学の那須耕介教授)

・なぜ、遠足のおやつは“300円以内”なのか
人は「不便」じゃないと萌えない
(情報学研究科 システム工学の川上浩司特定教授)

・ズルい生き物、ヘンな生き物  
“単細胞生物”から、進化の極みが見えてくる
(人間・環境学研究科 進化生物学の神川龍馬助教)

・「ぼちぼち」という最強の生存戦略  
未来はわからないけど、なるようになっている
(人間・環境学研究科 地球物理学の酒井敏教授)

以上、6編の講義が掲載されています。先生たちの「変人」ぶりを読んで感じることはありませんが、講義内容はなかなか刺激的で、とくに文系人間の私にとっては「へぇー!」という学びに満ちた読書体験でした。

「『変人の精神』を持っている人がいなければ、世の中は新しくならない。どんどん閉塞感が増すしかありません。……地に足をつけているだけではダメなのです。」(山極総長)

酒井敏ほか『京大変人講座』 三笠書房 2019年5月刊