「校長ブログ」 No.155(2019年3月28日)

2019.03.28

旅立ちのとき

東京都心は昨日(3月27日)、桜が満開になったとのことでしたが、例の本校標準木はまだ五分咲き程度でしょうか。(同日午後撮影)

昨年の同じ日にはすでに満開でした。今年は少し遅れている上に、週末に向けて寒の戻りがあるようなので、本校の満開は週明けくらいにずれ込むかもしれません。

さて年度末のこの時期は、卒業生も在校生も4月からの新しい生活、新しい学年を始めるための準備で何かと気忙しいのではないかと思います。大空に向かって今まさに飛び立とうと管制塔の指示を待つ、滑走路上の飛行機のパイロットの心境かもしれません。

きみのため用意されたる滑走路きみは翼を手にすればいい
萩原慎一郎『歌集 滑走路』より

これは一昨年に出版され歌集としては異例のベストセラーとなった、若き歌人、萩原慎一郎さんのデビュー作にして遺作となった作品集中の一首です。萩原さんは中高時代に辛い経験をされる中で短歌と出会い、大学卒業後は非正規雇用の職を転々としながら創作活動を続けられました。

この作品は、今まさに新しい世界に飛び立とうとする夢や希望を詠んだものとも読めますが、「きみ」は必ずしも自分のことではなく、自分は取り残される側だとすれば、そこには明るい未来ではなく、閉塞感や孤立感が立ち籠めているようにも詠めます。歌集に収められた非正規雇用の厳しい現実を直視した作品の数々にふれると、そういうふうに解釈すべきかとも思います。

しかし、萩原さんの短歌は、たんなる暗さ、辛さ、苦しさだけではない、自分と同じような境遇にある人たちに対する共感や、「それでもなんとかやっていこうよ」というエールが込められているように感じられ、読み手はその“やさしさ”に感動を覚えるのです。

空を飛ぶための翼になるはずさ ぼくの愛する三十一文字が
(同上)

滑走路から飛び立とうとするみんなが希望通りの針路を取れるとは限りません。不本意な目的地に向かって旅立つ人もいるかもしれません。それでも、人は今いる場所から進んでいかないとならない。進んだ先にある新しい出会いを信じて。


来年度もどうぞよろしく。


※萩原さんは本書の刊行を前に32歳で亡くなられました。

萩原慎一郎『歌集 滑走路』 角川書店2017年12月刊