「校長ブログ」 No.109(2017年11月16日)

2017.11.16

岩村暢子『残念な和食にもワケがある』

2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された日本人の伝統的な食文化である和食。その特徴は、①多様で新鮮な食材とその持ち味の尊重、②栄養バランスに優れた健康的な食生活、③自然の美しさや季節の移ろいの表現、④年中行事との密接な関わり、以上の4点とされています(農水省ホームページより)。

しかし、現実の食生活の中で、私たちはどれだけ和食を食べているのでしょうか。みなさん、この3日間の朝、昼、夕食のメニューを思い出して下さい。代表的な和食メニューである煮物(煮込み、煮付け、煮浸し、炊き合せ)やお浸し、焼き魚等々、どれだけの回数食膳に上がっていたでしょうか?そんな日本人の日常の食卓の今を、数百人の主婦へのアンケートと食卓写真をもとに分析した岩村暢子さんの『残念な和食にもワケがある』を、たいへん興味深く読みました。

著者の岩村さんは20年間にわたって家庭の食卓を調査(「食DRIVE」調査)してきました。413世帯8673食卓、15611枚の食卓写真を収集・分析し、のべ700時間以上のインタビューを通じて、この間に家庭の和食がすっかり変容し(あるいは崩れ)減少してきた事実を、本書は明らかにしています。

白いご飯は味がないので苦手、味噌汁はあってもなくてもいい、「一汁三菜(注)」って知らない、消える「さしすせそ」と和風調味料、給食で初めて煮物を食べる子どもたち、箸が消えていく、お子様用プレートで食べる大人たち、夏の鍋料理・冬の素麺、酒の肴にカレーライス、「流し込み食べ」と和食の衰退、結婚前お米を研いだこともなかった…、こうして小見出しのいくつかを並べただけで、ごく普通の日本の家庭料理から伝統的な和食文化が姿を消しつつあることが見えてきます。(収録されている様々な家庭の食卓写真で確認できます)

著者はそうした現状を、嘆いたり批判したり和食復権を声高に主張したりはしません。そんなことより家庭の和食が減少し崩れていく背景にあるものを見つめています。

和食を支えてきた日本人の伝統的な自然観(季節感)、古くからの行事やしきたり、家族関係や個人のあり方、そして働き方や暮らし方が、いつの間にかすっかり変わってしまったこと。その結果、伝統的な和食はもはや現代の家庭の食卓事情に馴染まなくなってしまったという事実を浮き上がらせているのです。和食の無形文化遺産登録を素直に喜んでよいのかと、静かに問いかけているように思えました。

※岩村暢子著『残念な和食にもワケがある』(中央公論新社2017年10月刊)

(注)「一汁三菜」…和食の献立の基本構成。汁物一品に料理を三品という意味。現代の家庭料理では、米飯と汁に、肉や魚の主菜一品、野菜や豆腐など植物性の副菜二品で「一汁三菜」としているようです。(Wikipediaより)