「校長ブログ」 No.87(2017年4月27日)

2017.04.27

国谷裕子『キャスターという仕事』

23年間にわたってNHK総合の報道番組「クローズアップ現代」(以下:クロ現)のキャスターを務めた国谷裕子さんの著書『キャスターという仕事』を読みました。

ニュースキャスターは局のアナウンサーではありません。アナウンサーはニュース原稿を正確に読み伝えることが仕事ですが、キャスターはニュースの送り手(放送局)と受け手(視聴者)の間をつなぐパイプ役として、あくまで「話し言葉」で伝えることが仕事だと国谷さんは言います(因みにキャスターは和製英語 アメリカではアンカーと言う)。

帰国子女で、海外で長く教育を受け、日本語に対してコンプレックスを持っていた国谷さんが、クロ現のキャスターとなってこだわったのが「言葉の持つ力を大事にすること」でした。言葉によって画面に映し出される映像の持つ意味や、映像の背景にあるものを明らかにさせること。そのために国谷さんは「想像力」「常に全体から俯瞰する力」「ものごとの後ろに隠れている事実を洞察する力」を大切にしながら、日々番組を伝え続けたそうです。

23年間で計3784本も制作されたクロ現は、話題性のあるテーマを掘り起こし多面的な見方・考え方を視聴者に提供し続けました。本書では多くのスタッフが関わりながら、30分弱の番組が出来上がるまでの舞台裏を紹介しています。番組冒頭に置かれた1分半~2分程度の「前説(まえせつ)」原稿は、テーマの趣旨を視聴者にわかりやすく伝えるため、国谷さんが時間をかけて自分の言葉で書き上げてきたそうです。また、ゲストの深い思いに肉薄し正確な答えを引き出すための、インタビュアーとしての工夫と苦労を綴った話にも大変興味深いものがあります。孤高の映画スター高倉健さんへのインタビューで、高倉さんの答えを待って17秒間も沈黙が続いたというエピソードは圧巻です。

そして、国谷さんはテレビ報道の持つ危うさを次の三つにまとめています。

「事実の豊かさを、そぎ落としてしまう」という危うさ
「視聴者に感情の共有化、一体化を促してしまう」という危うさ
「視聴者の情緒や人々の風向きに、テレビの側が寄り添ってしまう」という危うさ
 
シンプルでわかりやすい表現を多用することで、視聴者の感情を一体化させると同時に、視聴者の感情に寄り添ってしまうテレビの危険性を指摘するこの言葉は、非常に重たいものがあります。

2016年3月、番組改編を機に国谷さんはクロ現キャスターを降りました。番組は今春の改編でNHK報道のエース、武田真一アナウンサーをキャスターに、「クローズアップ現代+(プラス)」として放送中です。

国谷 裕子著『キャスターという仕事』(岩波新書 2017年1月刊)