「校長ブログ」 No.30(2015年11月25日)

2015.11.25

奥田 英朗さんの『我が家のヒミツ』(集英社刊)
 
毎週日曜日の朝は新聞の読書面を開いて面白そうな本をチェックします。学校では全部で5紙の新聞(朝日、読売、毎日、日経、産経)を取っていますから、月曜日に出勤すると自宅で取っていない新聞の読書面も拾い読みします。各紙それぞれに特色があって、取りあげる傾向が全く異なる場合もあるし、同じ本を数紙が同時に取りあげることもあります(11月22日は読売と毎日が同時に『小泉今日子書評集』(中央公論新社刊)を取りあげていました)。同じ本でも書評する人が違えば感想も違うこともあって面白いものです。

読書面を見るようにしている理由は、本屋で見かけても自分からは絶対に手に取りそうもない本を、書評を通じて知ることになるからです。読書にも「食わず嫌い」ということがあって、何となく今まで読むことのなかった作家ではあっても、書評で紹介されていたので読んでみたら意外に自分の感性にあっていた、ということもけっこうあるのです。

奥田 英朗さんの最新作『我が家のヒミツ』もそうやって知って読んでみて、とても感心した1冊です。

奥田さんには家族をテーマにした短編小説集のシリーズがあるそうで、本作はその第3弾にあたります。

勤務先の歯科医院に大好きなピアニストが患者として来てしまった、31才小松崎敦美の物語。(「虫歯とピアニスト」)
社内で出世競争していた同期に負けてどうにも気持ちの収まらない、53才植村正雄の物語。(「正雄の秋」)
16才になって会ったことのなかった本当のパパ(生みの親)に会いにいく、16才江口アンナの物語。(「アンナの十二月」)
母親が急に亡くなり見るからに意気消沈する父親を気遣って実家に戻った、24才若林亨の物語。(「手紙に乗せて」)
産休で自宅にいるがどうも隣室の夫婦の様子が怪しくて気になってしかたない、32才松坂葉子の物語。(「妊婦と隣人」)
市議選に立候補をすると言いだした妻をもつ読者にも文壇にも忘れられつつあるN木賞作家、50才大塚康夫の物語。(「妻と選挙」)

どれも主人公たちの前に「人生は一筋縄じゃいかない」と思わせるようなドラマが起こるのですが、最後は「家族さえいれば何とかやり過ごせる」とも思える心温まるオチがつく、平易な文章ながら巧みに構成された見事な短編小説です。

クリスマスのプレゼントにお父さんやお母さんに贈ったら、きっと喜ばれると思います。