子供の頃,木材にモータとギヤボックスを取り付けたボール紙製ボディのリモコンロボットを何台も作りました。モータもギヤボックスも大変な貴重品で,それらは使いまわしの宝物でした。高価な模型を買うことができず,しかたなしに同じようなものを作ることにしたのです。当時は高度経済成長の台頭期で子供向けの科学雑誌や工作雑誌が数多く刊行され,テレビでは工作番組が放送されていました。35年ほど前の,工業立国という言葉が日本の原動力となっていた頃の話しです。今回貴重な紙面を頂きました。ここでは具体的な工作の紹介はしていません。失敗に挫けず何にでもチャレンジできる可能性を秘めた皆さんに,科学・技術への夢を感じとっていただければと考えているのです。
皆さんはロボットという言葉に未来へ広がる大きな夢を感じませんか。現在ロボット研究やロボット技術の第一線で活躍されている方々の多くが,少年時代に親に叱られながら読み耽った鉄腕アトムや鉄人28号など当時の少年漫画の影響を大きく受けているとお聞きします。そこには皆さんが抱いているのと同じ,あるいはそれ以上の未来への夢が盛り込まれていたからです。時代を経るに連れてガンダムやスターウォーズやドラエモンやロボコップ,ターミネータ…等,数え上げると切りがないほど多くのロボットが登場して近未来を予感させてくれました。これらは全て人間型のロボットです。しかし,現在では皆さんもご存知の通り人間の外観を真似たものだけでなく,いろいろな形態のものをロボットと呼んでいます。
写真1はテレビでも紹介され,全世界のロボット研究者に衝撃を与えた自立歩行人間型ロボットで,右側の小さな方が最新型です。何故,衝撃を与えたかというと,ロボット研究の最前線では,このタイプのロボットは実現不可能だろうと考えられ,諦めかけられていたところだったからです。特にロボット自身がエネルギ源であるバッテリを背負って,関節を調節しながら外部からのコード配線を全く持たずにしっかりと歩行する光景は,人類が月面へ記した足跡の第一歩にも似た動きだったと私は感じています。直接には利益を生むことのない基礎研究を重視するという企業の姿勢が成功の支えになったのでしょう。荷物を押すための歩行を目的としたのではなく,技術力の基礎研究用のロボットの例です。このロボットを作った技術者集団の夢は鉄腕アトムだということを何かの記事で読んだ覚えがあります。ロボット作りは技術者の大きな見果てぬ夢なのです。
写真2はラジコンヘリコプターの飛行ロボットです。農薬散布の装置を搭載して低空から農薬を散布することにより人と環境に優しい次世代の農業機械として活躍しています。皆さんはラジコン操作をしたことがありますか?ラジコンヘリコプターはラジコン操作の中でも技術習得の最も困難なものといわれています。農作業を行うときに操作の難しい機械を使うのは大変ですね。このロボットは初心者でも最小限の技能指導を受けることで安全に運用できるようにコンピュータ制御されています。このロボットに関連して散布装置の代わりにビデオカメラを取り付け,人間が実際に行くことのできない危険な場所などの様子を監視させるロボットも実用化されています。これらは人間の代わりに仕事をしてくれるロボットです。
私がここで皆さんにお勧めする「ロボット工作」は,残念ながら上に紹介したような素晴らしいロボット達を作るためのものではありません。皆さんの10年,20年後に現在のロボットを超える素晴らしいロボットを産み出してもらうための下地として,「楽しいロボット作り」の夢を一緒に探ってみようということを目的としたものです。写真3は愛嬌があるでしょう。製作者の人柄がよく現れています。
私にとっての夢のロボットは鉄人28号でしたが,電高太郎君の作者の夢はドラエモンだったのかも知れません。そういえば,アラレちゃんもスーパーロボットですね。こんなことを考えるだけで楽しくなりませんか。
私がこの場で述べさせていただくのは,「ロボット工作」という名の「ものづくり」の話しです。現在,多くの機会に皆さん方への「ものづくり」が呼びかけられています。それは次世代の主役となる皆さんに科学・技術への関心を高めてもらい,皆さん自身に物質的資源の少ない日本の貴重な人的資源となっていただくためです。もちろん,全ての人に科学・技術の分野へ進んでもらうということではありません。
私が皆さんにお勧めする「ロボット工作」は技術につながるものです。工作の初めは「勘」や「模倣」から,そしていろいろな失敗を通して次第に「工夫」,「改良」,「発案」,「吟味」へと発展していくのです。私は技術の範囲はここまでと考えます。模倣,工夫,改良,発案と発展させ吟味を加えはじめると,次には現状を考察して無駄を省き,共通性のある事柄にまとめるという姿勢が現れると思います。これは真理を追究する科学そのものです。“科学と技術は似て非なるもの”と言われ,その違いを説明する多くの説の一つに,「科学者は真理を探究し,技術者は創造する。」というものがあります。気体や液体の流れを扱う流体工学という分野で多くの業績を挙げたカルマンという科学者の説です。
私が「ロボット工作」を勧める理由は次の点にあります。ロボットの最終の目的は人間のためになることです。これにはいろいろな分野が考えられ,目的を満足するロボットを作るには多くのことを観察して分析しなくてはなりません。現在,社会で活躍しているロボットは多くの技術分野と科学分野を基礎として,関連する事柄を採り入れた複合集成技術の結晶なのです。
ここでの「ロボット工作」はそこまでのことはできません。図1は「ものづくり」への私の漠然とした考えを整理したものです。皆さんにはロボットを作る過程で生じるいろいろな問題を解決する努力を経験することで,広い範囲の技術的センスに気付いて欲しいと考えています。これはトラブルシューティングと呼ばれる大切な作業につながるものです。もちろん苦労するだけではつまりませんね,いろいろな失敗や苦労の結果,皆さんそれぞれの「マイ・ロボット」を完成させて,動くものを作るのは楽しいということを実感してもらうことが「ロボット工作」の最大のねらいです。
皆さんはロボット相撲やロボコン,ロボカップ等というロボット競技会を聞いたことがあるでしょう。参加資格制限の有無や競技,審査内容の相違はありますが,折角,苦労してロボットを作るのならば,どれかの競技会に目標を絞って,「先ずは参加する」ということを考えてみることを提案します。いきなり競技会に参加するのが不安ならば友達同士や学校内でどれかの競技会の規定を真似て,自分たちの競技会を開催すれば楽しいでしょう。自由に作ることも楽しいですが,規定を定めてその範囲でロボットを完成させることで,より多くの工夫を強いられる点が生まれてきます。工夫が多ければ多いほど失敗も多く,どうにか完成させたときには絶対に「楽しいロボット工作」になるはずです。
「ロボット工作」は楽しいですよ。でも,工作には材料や道具が必要ですね。材料を揃えるのに高額な費用が必要になったり,工作のために特殊な機械を必要とするのでは,なかなか手をつけることはできません。だれもが自分の街で揃えることのできる材料と家庭にある道具で作れる「マイ・ロボット」が,私の勧める「ロボット工作」です。と言っても,はじめから用意された部品を組み立てるのと異なり一枚の板・一本の棒など,全くの原材料から作るのですから,これだけは必要だと考えることをまとめてみます。
ボール紙工作でもロボットは作れます。でも二台で相撲をとらせようとすれば紙では弱いですね。初めて作ろうという方はプラスチックやアクリルなどは使おうとするのですが,これらは案外と加工が面倒なのを知っていますか?アルミニウム材を使うのがいいと思います。材料は厚い方が強い訳ですが,「過ぎたるは及ばざるが如し」で無用に頑丈でも加工に苦労するだけです。機械力を使わずに手工具の金切はさみで自由に切断することを考えると,板材の厚みはせいぜい1mm位までにとどめておくのが良いでしょう。
薄い材料でも図2のように工夫をすれば加工の楽な材料で十分な強さを確保できます。(a)の長方形断面の材料は横で使うより縦にした方が強いということです。(b)は,薄い材料でも縁を折り曲げれば丈夫になるということで,(c)は丸い棒の強さとパイプの強さの比較です。パイプがこんなに強いと知っていましたか?材料の強さを考える学問分野でこれらの理由を解明できます。でも横にするより縦の方が強いとか,材料を折り曲げた方が強いというのは皆さんの経験から十分に理解できることでしょう。
形を作るための材料の他にもモータをはじめとして,ギヤ,タイヤ,電子部品などのものがあります。アルミ板やモータ,タイヤなどは模型店や文具店,日曜大工のお店で入手できますが,電子部品となると誰でもが簡単に入手できるとは限りません。近くに適当な販売店のないときには興味のある人が何人か集まって通信販売を利用するのがいいでしょう。(学校だったら仲間を集めて先生に相談しちゃいましょう!)初めのうちは,すぐに手に入れることのできる部品で工夫をしましょう。写真4のテントウ虫の外形は100円ショップの台所用品売場で購入したプラスチックボールを利用しています 。

皆さんのロボットのエネルギ源は乾電池や充電池など,一般にバッテリと呼ばれるものになるでしょう。バッテリは身近ですが大変強力な電源で,使い方を誤ると思わぬ怪我をすることがあります。例えば,ショートに気付かず放置したり,細すぎるコードで配線したりするとコードが過熱して焼けてしまったりすることがあります。図3(a)のように電池につなぐ電球やモータの必要とするエネルギはそれぞれ異なります。大きなエネルギ与えるためにはコードも十分な太さを必要とします。モータはバッテリから与えられた電気エネルギをモータ軸の回転という機械エネルギに変換する機器です。誰もが入手できる模型用の小型直流モータは,電圧を変えることで回転速さを調節でき,極性を変えることで回転の向きを変えることができます。このようにモータを自由にコントロールすることを制御と呼びます。簡単なコントロールならばスイッチの切り替えだけでできますが,ちょっと細かなコントロールをするにはトランジスタやICの簡単な使い方を知る方が便利です。決して難しいことではありません。
モータを回転させてもその先に何も無いのでは動きのあるものは作れません。「ロボット工作」は,いろいろな技術を調和させて動くものを作るところに面白みがあります。メカニズムという言葉は日常でも聞き慣れているでしょう。これを機構と呼びます。機構とはモータの回転を減速したり,回転から歩行ロボットの足の運動を作ったりする構成のことです。自転車のペダルをこいで,タイヤを回転させるまでの一連の構成も機構の例です。また,シンプルにまとめたメカニズムには機能美と呼ばれる美しさも伴います。写真5はメカニズムむき出しの工作ですがデザインとしてもすっきりとまとまったと自画自賛しています。
材料を自由に加工できる工作機械を持たないのですから,板材の加工が主となります。板材は細切れにせず,写真6のようになるべく展開して折り曲げるようにします。アルミ材をしっかりと接合するには,ねじやリベットを使います。これらを使うためには板材に穴を開けなくてはならないので,最低限ドリルは必需品になります。大きな穴の加工はあまり必要としないので,小型のバッテリー式や手回しのものでも使えます。穴を開けるだけの作業でもしっかりと手順を考えないと穴がずれたり,開けられなくなったりすることがあります。紙を切るときにはさみを何気なく使っていますが,はさみで金属を切るときには頭を使って何故きれるのかな?ということを考えることも必要になるかもしれません。
デザインとは設計のことです。ロボットを作るための設計ですから絵の上手・下手ではありません。上の(1)〜(4)と並行して実物の材料を手にしながら頭の中のイメージを図に描き示すのがいいでしょう。本来の生産手順では全ての設計が終わってから加工を行うのですが,私たちの行う工作ではどうしても作りながら設計をするということになってしまいます。これは工作に対して蓄積されたデータがなく加工の技術が安定していないためです。写真7は薄く広くという方針で組立てたものです。使用した部品ではこれが限界でした。
以上のように考えてみると,単なる興味や一時の面白味だけでロボット工作を完成させることは難しいことが解るでしょう。時間的に考えても1日や2日間だけで済むものではありません。じっくりと計画を立てた継続的な仕事になることは明らかです。これが技術の性質なのだと理解してもらえればいいでしょう。
正直に言うと,長い工作期間の中で楽しいと感じるときは,時間にすれば消費税5%にも満たないのではないのかなと思います。例えば,一個所の加工に3時間かけとします。一度で上手くできたとして,その喜びに浸る時間はどれほどあるでしょうか。もし一度で成功しなければ,その修正に新たな時間が必要となるのですから楽しみを感じ取れる時間というのは本当にわずかなものというしかありません。でも私の知る限りでは,ほんの瞬間の時間でもその大きさ・深さは決して小さなものではなく,10年,20年それ以上に渡って記憶の中に残されている方が多いようです。
ところで,上に挙げたように大変なことを初めての皆さんが一人で行うのは良策とはいえません。私は数人のグループ作業を勧めます。でも,工作の程度にあわせて適当な人数を考えないと「見ているだけ」の人ができてしまい,面白くありません。ちょっと人数が足りないかなと思うくらいが,責任をしっかりと自覚してチームワークを守って楽しい工作になると思います。
こうしてみると,特別な材料や工作機械を必要としなくてもロボット工作はできそうな気になりませんか?そして,工作を通して多くのことを考えさせられることになることが解るでしょう。
皆さんが一生懸命に作ったロボットを,「おもちゃ」とか「買った方が安い」と評価をする方がいるかもしれません。これは客観的に見た事実ですから素直に聞いておきましょう。私たちがロボットと呼んで何度も失敗しながらやっと完成させたものと玩具屋さんで売られているものを冷静に比べれば明らかに出来の悪いおもちゃに違いありません。ラジコンロボットで遊ぶことを目的とするのなら,完成品を購入する方が時間的・金額的にも有利であることは確かです。私たちは「ロボット工作」の目的を,作る過程を経験することにあると考えるべきです。
砂場で遊ぶ子供が手にするショベルカーをおもちゃと呼ぶ人も,建設現場で働くショベルカーをおもちゃとは言いません。そして,スペースシャトルに搭載されたロボットアームは立派な科学機器と言えるでしょう。でも,おもちゃのショベルカーと建設現場のショベルカーのメカニズムを見るとよく似ています。宇宙で活躍するロボットアームも基本的な構成は近似しています。
皆さんが二人あるいは三人の十分な工作環境に無い状況で,失敗しながらも何とかおもちゃを作ることができるのならば,立派な設備と経験豊かなスタッフの大勢そろった環境のメンバーとして皆さんが参加できたなら,高機能なロボットだって作れると思いませんか?
はじめに断ったように私が勧める「ロボット工作」は皆さんの10年,20年後に答えの出る作業なのです。「ものづくり」に懲りたという人は別として,例えば今日,工作に失敗してロボットを完成させることができなくても,また明日,または来週,それがだめなら来月,来年と完成が近い未来へ伸びただけのことで,楽しみを先送りしたと思えばいいのです。そして20年後には本物のロボット,現在では想像もできないものを作るという夢につなげるのです。
私たちの「ロボット工作」を単なるおもちゃ作りに終わらせず,未来へつなげるためのヒントを次のような日常から考えたらどうでしょうか。病人を介護をする柔らかいロボットが自宅にいたらいい。誰でも持てる盲導犬ロボットがいれば視力の弱い人でも安全に行動できる。火炎や高温に強い消防士ロボットがいれば消火活動も安全になる。,,,私たちの生活を助けてくれるロボットはまだまだ,いろいろとあるはずです。
家具の隙間の奥深くに大切な書類が落ちてしまいどうしても取ることができない。こんなときに写真7のようなロボットが登場して隙間に入り込み,重要書類をとってきてくれたらありがたいと思いませんか?これはマイクロロボットと呼ばれる小さなロボットです。写真のものは精密機器メーカーの製品で光センサを利用してCPUを組み込んだ高性能なものです。マイクロロボットの研究は次世代ロボットとして活発に行われ,人体に入って検査や簡単な手術を行おうというSFのような話が目標の一つでもあります。
写真8のマイクロロボットはあるメーカーの試作開発品で外部からの助けを一切借りずに自分で動くロボットで,非売品ということです。(a)は超小形潜水艇で30年ほど以前の「ミクロの決死圏」というすばらしいSF映画を連想させられます。(b)は8本の足で歩行するマイクロロボットです。いろいろな昆虫の動きをロボットに置換える研究も盛んに行われています。どちらも机の上に一台欲しくなる芸術品のようです。非売品というのが残念ですがそれならば「作ってしまおう」というところから「ロボット作り」や「ものづくり」が始まるのです。
技術や科学は,こんなに楽しい夢を実現させることができます。皆さんの中から一人でも多くの方が「ものづくり」にチャレンジてくれることを期待しています。
全国の学校で,インターネット環境を充実させる方向にあるようです。この文章をまとめるにもインターネット情報を活用しました。アクセスできる皆さんは次のURLを閲覧して下さい。
下のURLは皆さんと同じように,工作機械を持たない,工作はほとんど初めての者が,限られた時間の中でやればできるという意気込みで作った手作り工作の紹介ページです。文中でもいくつかの写真を紹介いたしました。作品とページの出来栄えについては何とも言えませんが,「これならできる!」という元気付けにはなると思います。
失敗の連続に挫けないページ
http://www.kgn.dendai.ac.jp/~komine/次のURLは本文で写真を使用させていただいた企業のページです。関係の方々に深くお礼申し上げます。
本田技研工業株式会社
http://www.honda.co.jp/tech/other/robot.htmlヤマハ発動機株式会社
http://www.yamaha-motor.co.jp/sky/新キャタピラー三菱株式会社
http://www.scm.co.jp/SEIKO EPSON Corporation
http://www.epson.co.jp/トキ・コーポレーション株式会社
http://www.toki.co.jp/VerJapanese/MicroRobotGallery.html![]()
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